*** 『20：バイバイ』 ***

「それじゃあな直江、また明日」 ※※※ 高耶は背中を向けて歩き出していった。 直江は何か言いたげに、その後ろ姿を見送る。 （高耶さん、もしかして忘れてしまったんですか？） 直江は、必死になって高耶を追いかける。 「待ってください、高耶さん！」 「直江…？」 後方から聞こえる直江の叫び声に、高耶が振り向いた。 直江の手が突然高耶の腕を引っ張り、体をおもいきり引き寄せる。 「わっ！、直江ッ」 「放せ、馬鹿。誰かに見られたら…ッ！」 「誰もいませんよ」 「高耶さん、明日が何の日かご存知でしょう？」 「え…明日？」 「――…あ」 直江は高耶を抱きしめたまま、静かに頷いた。 「…そう、あなたの誕生日ですよ」 ※※※ （あなたが生まれてきたことに感謝する） なによりも大切で愛しい日だから、誰よりも先に、先ずおめでとうを言いたい。 「それなのに、今夜共に過ごすのではなく、 　 今日はこれでお別れなんてひどいですよ高耶さん」 「悪かったな…。別に悪気はねーんだ」 「おまえと過ごしたくないとかそんなんじゃなくて、ただ忘れてただけで―…」 「ええ、わかっています。でもこれで安心しましたよ」 直江の先ほどまでの焦った様子を振り返って、高耶は笑い出す。 「直江おまえ、すごく必死だったぞ？」 「笑わないで下さいよ、高耶さん」 ププ…ッ。 「ばぁ〜か」 高耶は直江の首に腕をまわして、強く抱きしめた。 （あったかい…） そして、その心地よいぬくもりに安心したかのように、微笑んだ。 「どうしたんですか？外ではいつも恥ずかしがって嫌がるのに」 「いいんだよ、今は誰もいないから」 「そうですね…」 照れて小さな声で言う高耶の姿が可愛くて、今度は直江がくすくすと笑った。 額に、口唇に頬に、優しく何度もおちてくる口づけ 今夜は、二人だけの愛しい時間――… 02：初めての…に続く。 BACK