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「直江、オレあれ乗りたい…」 ホテルでの夕食時、窓から見える観覧車を指差して、高耶が呟いた一言から始まった。 ※※※ 「うわっ、すげーっ！」 「直江、ほら見ろよ、人があんなに小さい！」 「喜んでいただいて嬉しいですよ、高耶さん」 「夜景も綺麗だなぁ」 眼下に広がる闇に、ビルや照明などの光が眩しいくらいに輝いている。 高耶は観覧車の窓から離れずに、飽きることなく外の風景を純粋に楽しんでいた。 珍しく子供のようにはしゃいで喜ぶ高耶の姿を見て、直江は静かに微笑んでいる。 「しかし、めずらしいよな。観覧車って普通は昼だけだろ？」 「ここは大人が楽しむ為の買い物リゾート地ですからね、 観覧車も夜間まで行っているんですよ。主に恋人達用にね」 「ふーん、そうなんだ」 ※※※ 「あのさオレ、観覧車乗るの実は初めてなんだ」 「子供の頃、遊園地では乗らなかったの？」 「ジェットコースターなら何度も乗ったけどな、観覧車は初めて」 「―…おい、なんで笑うんだよ」 「いえ…」 肩を震わせて笑い出した直江の様子が高耶には面白くないのか、剥れて眉をひそめる。 「でも、こんなにいい眺めなら、もっと早く乗っておくべきだったな」 「随分気に入りましたね」 「ああ、最上から見下ろす夜の景色は気持ちいい…」 ※※※ 「―…でも、こんなに楽しめるのは、隣におまえがいるからだ」 そう告げて、笑みを浮かべた。 直江の右手が突然、高耶の腰を抱き寄せる。 「や…なおえ…」 いきなり後ろから抱きしめられて、高耶は身動きが取れない。 直江は耳元でゆっくりと囁いた。 「嫌じゃないでしょう、もっとでしょう？」 「馬鹿、こんなところで、いきなり…ッ」 「――あなたが悪いんですよ」 「なんでオレがッ…！」 羞恥で顔を赤くしている高耶に、直江はもう一度耳元で囁いた。 「あなたがあんなことを言ったりするから、すぐにでも触れたくてたまらない―…」 「なお…ッ」 「ほら、目を閉じて…」 「んぅ…ッ」 抗議の声は男の口唇に吸い込まれてしまう。 驚いて抵抗しようと試みるが、直江の手は更に胸元、内腿へと侵入していく。 「や…め…ッ」 首筋を這う舌、敏感な部分に触れる指先――… 「―…あ…ッ…」 下半身を右手で掴まれて、たまらず高耶は声をあげた。 「ほら…、もうこんなになってる。敏感なひとだ」 「なに…考えて…ッ」 「我慢しないで」 直江は熱く掠れた声で、耳朶を甘噛みする。 いつのまにか抵抗しようともがいていた腕も、自ら男の背中にしがみついていた。 苦しそうに喘ぐ高耶の表情は、誰をも魅了する美しさを秘めているようだ。 熱い疼きは収まることを知らない。 もっと確かな刺激が欲しい―… 次第に直江の手に擦りつけるようにして、淫らに腰を動かす。 こらえきれずに放った白い欲情の証は、男の手の中で受け止められた。 ※※※ 「―…馬鹿…」 「すみません、高耶さん」 ――直江は苦笑する。 「もうこんなのは、いやだからな」 「でも…気持ちよかったでしょう？」 「――…っおまえ最悪だ！」 高耶はすっかり拗ねてしまったようだ。 そっぽをむいて直江の方を見ようともしない。 観覧車到着の時刻まで、ゆっくり夜景を楽しむ事に専念したらしい。 （かわいいひとだ） 直江は穏やかな眼差しで、高耶をみつめている。 顔を背けたままの高耶の髪に、直江の指先が触れた。 そっと、静かに髪を梳いてやる。 高耶はビクリと肩を揺らした。 「もうなにもしませんから」 「―…うん」 心地よく響く声――… その声を聴きながら、ゆっくりと瞳を閉じる。 飽くこともなく、指先は優しく髪を梳いている。 気持ちいいのだろうか、高耶の表情は穏やかだ。 ※※※ ―…その時、外の方から響く大きな音が聴こえた。 ボーン…ボーン…。 ガラス越しに外を見やると、大きな時計台の針が午前0時を示している。 「高耶さん、お誕生日おめでとうございます」 二人はもう一度キスをした。 「愛していますよ」 「―…わかってるよ」 こうしてオレの側におまえがいて、何気ない一日を過ごす。 なにも考えずに、まどろんで、すべてをおまえに預けて――… （ああ、なんて幸せなんだろう） 「何が欲しい？」 「―…おまえ」 おまえだけでいい―… 「ホテルに帰ったら乾杯しましょうね」 「赤ワインがいいな…」 「ええ」 「―…今夜はおまえが飲ませてくれよ、楽しませてくれるんだろう？」 高耶は少し潤んだ瞳で、舌をペロリと覗かせながら挑戦的な視線を促した。 「もちろんですよ…」 ※※※ あなたの言うことなら、なんでも聞いてあげる。 極上のワインを、魂を、私の全てを、あなたに――… Happy Birthday..Takaya BACK |