*** 朝のひととき ***

「おはようございます、高耶さん」 「ん……なおえ？……も、朝？」 布団の中で軽く目を擦りながら、ぼんやりとした瞳で高耶は呟いた。 ゴロンと横に寝返りをうちながらゆっくりと目を覚ますと、枕元に座る直江の姿が目に映る。 部屋に差し込む暖かな陽射しを眩しそうに受け止めて、半分おりた瞼をもう一度こすった。 高耶の浴衣は、寝ぐせの為か、あちこち乱れてしわくちゃになっている。 「これでは風邪をひきますよ？」 耳元で囁く直江、――……感じる吐息。 ふと、高耶の脳裏に、昨晩の行為がよぎった。 急に気恥ずかしくなったのだろう、 突然、耳まで真っ赤にしながら蹲ってしまう。 そんな高耶の仕草があまりに可愛くて、直江は小さく笑った。 「こら！直江、笑うなッ…！」 「かわいいですねえ」 直江は穏やかな瞳をして、そっと高耶の髪に触れる。 伝わってくる温かさ、そして……ぬくもり。 ゆっくりと高耶は、目を閉じた。 直江の手が、髪を梳く感触を、肌で感じ取るかのように――……深く。 ※※※ 「高耶さん、明けましておめでとうございます」 「……うん。今年もよろしくな」 上体を起こし、照れくさそうに答える高耶を見やると、直江はもう一度優しく耳元で囁いた。 「いい夢はみれましたか？」 「…うーん…あまり…覚えてないかも、くやしいけどさ」 「おまえはどうなんだ？」 「…そうですね、私もうっすらとした記憶はあるのですが、よく覚えていないようです。 　 初夢とは案外そういうものなのかもしれませんね」 「―…そうだな」 直江は、少し残念そうな表情をする高耶の体を引き寄せ、額に軽く口付けた。 まず額に、瞼に、頬に、そして首筋に――…。 直江の唇が高耶の喉元に触れると、ぴくりと、高耶は肩を震わせた。 最後には、お互いの口唇が重なりあう。 「まだ…昨日の痕が、残っていますよ…」 うっすらと残る情事の痕、赤い痣。 直江は愛しいものに触れるかのごとく、優しく口づけてゆく。 「ん……くすぐった…」 無意識に誘っているかのように、高耶は潤んだ瞳で見上げた。 ※※※ 「…ん…今、何時？」 「もう12時ですよ。あなたがあまりにも気持ちよさそうに寝ていたから、あえて起こしませんでした」 「昼？………ひ、昼だって―――ッ！！」 「馬鹿！なんで起こしてくれなかったんだッ。お参りいかなきゃッ、初詣で！！」 「は？…お参り…ですか？」 直江にとっては、今からどうやって高耶を可愛がってあげよう…と、そんなことばかりが念頭にあった為、 高耶の突然の申し出に、少々あっけに取られた様子だ。 「そうだよッ、そしておみくじも引かなきゃ！おみくじによって今年の運命はきまるからなッ」 直江は思わず拍子抜けしてしまい、くすくすと声をあげて笑った。 「なんだよ、なんかおかしいかよ…」 「――いえ、あなたがあまりにも嬉しそうにはしゃぐので、つい…」 直江は、ただ優しく笑うばかりだ。 そんな直江に高耶は呆れた様子で、早速出かける準備をするべく、と布団から出ようと立ち上がる。 「高耶さん…聞いてもいいですか？」 「…何？」 「神社に行って、何をお願いするつもりなんです？」 「……それは、おまえと…――って言ったら意味ねーだろッ！！」 高耶は恥ずかしさに顔を赤らめ、怒鳴り、ドスドスと足音を立てながら、 シャワーを浴びる為にお風呂場へ行ってしまった。 「―――かわいいひとだ」 ※※※ 何を願うかなんて…そんなの決まってるよ直江。 おまえとこうして、また新年を迎えられたら……と願ってる。 そう、たったそれだけなんだ。 穏やかな時間が失われないように願うだけなんだ。 この、大切な、大切な…“時間を” おまえと共に、また迎えることができたら――…… ※※※ 『なあ…直江、おまえこそ何を願ったんだ？』 『…おそらく、あなたと同じですよ』 おわり ＜コメント＞ 新年なので、甘々な二人にしてみました【2003,1,7／桜】

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