***Feeling for you***

「――…ったく」 ドカドカと大きな足音を立てて、千秋は自分のベットのある寝室へと向かった。 「コラッ！バカ虎、起きねーか！」 「……ん…だよ…。うるせーな」 「ふざけんじゃねーぞ。勝手に上がりこんで人のベット占領するたぁ、いい度胸じゃねーか」 「……あれ？、オレいつのまに寝ちまったんだろ…」 目をこすりながら、高耶はぼんやりとした眼差しで、不機嫌そうな表情の千秋を見上げた。 「知るかそんなこと！―…ったく旦那はどうしたんだよ？」 「――…出張」 「なるほどね、それで一人家で直江を待つのも寂しくなったって訳か」 「なッ…！違ッ…」 「違わねーだろ？」 「馬鹿！違うっていってるだろーがッ」 「……へいへい」 大事そうにクッションを抱えながら、耳まで赤くなってムキになって反抗する高耶の様子に、 千秋は楽しげな表情をみせる。 「ところで景虎、土産は持ってきたんだろうな。手ぶらは許されねーぞ」 「おう、ビール10本、そして夕食付き。どうだ、満足だろ？」 「よしよし、やっと俺様の教育の成果が現れ始めたってことだな」 「――…言ってろよ、馬鹿」 お互い視線をあわせた瞬間、二人は声を噴出して笑った。 ※※※ よく考えたら、景虎が俺の部屋へ来たのは久しぶりのことだ。 以前は、直江とのいざこざがあればすぐ転がり込んで、あいつはここを逃げ場にしていたからな。 『あんた案外嬉しそうだったわよ？景虎に頼られて』 ―――ふと、以前に晴家に言われた言葉が脳裏に浮かんだ。 （頼られて？） ――ったく、何が嬉しそうだよ、まったく晴家の奴。 俺は悩み相談係じゃないッつーの！あの二人がどうなろうと知ったことかよ！ だけど、ここへ来る回数が減ったってことは、あいつらはうまくいってるってことだろう。 ようするに平和だってことだ。 （よかったじゃねえか） 「……なあ、千秋」 「なんだよ」 二人は、リビングで寛いでいた。 夕食も済ませ、ビールを片手に、家具も数少ない静かな部屋の中でソファーに腰掛けながら、 深夜放送の洋画番組を、じっとみている。 テーブルには、空のビール缶がいくつも転がっていた。 「おまえ、寂しくねえか？……こんな、殺風景な部屋に独りで住んで」 「別に、俺はこれが気楽でいいぜ」 「――…そうか」 そう言って、高耶は何か思うことがあるのか、少しやりきれない表情をみせた。 「オレは、…最近不安になる。以前は独りでも平気だった、そうしなければいけなかった。 　守るものがあったからだ。なのに、あいつに出会ってからオレ――」 「――景虎、おまえ…」 「こんなにも……弱……」 ――気づけば横で、安らかな寝息が聞こえてきた。 千秋への肩へと体を寄せながら、高耶は吸い込まれるようにして眠っている。 「なにが朝まで飲んでやるだよ。ビール3本でつぶれてんじゃねーか、ったく――…」 （しょうがねーな…） 千秋はもう一本ビールを開けながら、毛布をそっと肩までかけてやる。 TRuruuuuu........ ちょうどその時、携帯の着信音が鳴った。 「もしもし？」 『あ！長秀？あたしよ綾子。ごめんごめん私あんたに一言伝えるの忘れてたわー』 「？…なにをだよ」 『バカねえ、なにいってんのよ、今日はあんたの誕生日でしょ？お祝いの言葉よ、お祝い』 「――…誕生日？」 『なによ！あんた忘れてたの？』 （……ああ、そうか、そうだったな） すっかり忘れていたが、この宿体の――。 ※※※ 綾子との電話のやり取りが終わった後、千秋は眠る高耶の方へ穏やかな瞳で見つめた。 （―――だからか、今日あがりこんできたのは） 「……気ぃ使いやがって、律儀な奴」 前髪をそっと掻き分けながら、千秋は、高耶の額へと静かに唇を寄せた。 “ありがとな……” 気持ちは伝わっているから――…… Happy Birthday　chiaki End ＜コメント＞ 今回は、何も言わなくてもこうしてビールを手土産に（お祝いに）訪ねる高耶さん が書きたかったのでした。そして千秋、おめでとうｖｖ大好きだよッ！【2003,4,4／桜】

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