*** St.Valen tines Day***

夜の10時30分すぎ。――電話の呼び出し音が鳴った。 Turururu....... 『もしもし？』 『――高耶さん、私です。遅くなってすみません。 　 今から急いで帰って、おそらく11時頃には着きます』 『ああ、わかった』 （さて、シチュー温めねーと……）

あと、入り卵でも作っておくか

高耶は急いで台所に向かった。 直江が帰るまでにシチューを温めておこうと、ガスのスイッチを入れる。 食事の準備を整えながら、高耶はふと、昨日の直江との会話を思い出した。

※※※ 『高耶さん…明日は何の日か知ってますか？』 『――なんだよ』 『チョコなんてねーぞ、そんなもん…女じゃあるまいし』 『――知ってたんですね』 ※※※ そういいながら、直江の瞳は少なからず寂しそうな表情をしていた。 無言の要求が、高耶につきささる。

台所で忙しく動きながら、高耶はフウと溜息をついた。 （オレはチョコなんてどうでもいいんだが、 　あいつ、あんな行事に結構こだわるタイプだからなあ……） バレンタインに固執しなくても、今を一緒に楽しめて、お互いがそばにいる。 それだけでいい。 そうは思わないか？ ―――直江

※※※ ピンポーンと、玄関のチャイムが鳴り響いた。 ｢ただいま高耶さん｣ 「おかえり、直江」 今日の夕食は、シチューと入り卵に野菜炒め。 遅い時間での、二人の食事の時間がようやく始まる。 「おいしいですよ」 直江はじっくりと高耶の手料理を味わって食べている。 高耶は、直江のこの一言が好きだった。 そして、本当に嬉しそうに食べ物を口にする様子は、 見ているこっちまで嬉しくなるから、――……不思議だ。 だけど、なんだか照れくさい。 （頼むからこっちをじっと見つめながら、喋るのだけはやめてほしいんだけどな） ※※※ カチャ…カチャ… 食器を洗う音と流す水の音とが、部屋に響く。

｢なあ、直江。なにか温かいもの飲むか？」 「ええ、いただきます」

運んできたひとつのカップ。 中身はいつものコーヒーでなく、なぜか温かいホットココアだった。 微かに漂う、甘いチョコレートココアの匂い。 「たまには、甘いのもいいだろ？」 直江があまり甘いものを好みでないことは、高耶も十分承知である。 直江は、カップを差し出す高耶を見上げた。 「――……なんだよ」 ムッと、少し照れを含んだような表情をする高耶に、急に愛しさがこみあげてくる。 「高耶さん、ありがとうございます」 「…ッ。いっとくが、別にバレンタインとは関係ないからなッ！」 急に頬を赤らめ、直江を一睨みした後、せっせと後かたずけを再開するべく台所へ戻る。 （高耶さん、これをチョコレートの代わりだと思っていいんでしょう？） 直江は思わず笑みがこぼれた。

あなたらしい小さな心遣いが、愛しくてたまらない。 チョコレートでなくても、気持ちは充分伝わってくるから――…… 「高耶さん、愛していますよ」 直江は、高耶を背中から抱きしめ、振り向いた高耶の頬に口づけた。 Happy.Valen tines Day ＜コメント＞ 甘々を書きたかった模様。 チョコのかわりにココアで代用してみました。【2003.2.14/桜】

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