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*** Desire＜一章＞ ***
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ニューヨークシテイ郊外 午前0時40分深夜――… ※※※ 「なあ、ここ空いてる？」 一人の青年が近づき、声をかけた。 バーカウンターに腰掛けた年配の男は、声をかけたのが男である様子に内心妙だと感じながらも、 声のする方向へと振り向く。 一瞬目を疑った。 声をかけたのは男で、青年である。 しかし、なぜだか目を奪われてしまったのだ。 瞳が特に印象深いというべきか、よく見れば綺麗な顔立ちをしていた。 どうやら東洋系のようだ。 「ええどうぞ……」 男は誘いに答えた。 青年は微笑を浮かべながら、隣の椅子に腰掛ける。 「……どうも」 ※※※ 『景虎、あと5分そいつを引き止める必要がある。 Bチームの作業がまだ完了していない。 …このままでは奴に怪しまれる』 （５分だと？、ふざけてんのかよ） 耳の内部に設置した最新の小型通信機から聴こえてくる、電子音での指示。 もちろん聴こえているのは青年だけだ。 「――…なるほど。君みたいな魅力的な青年なら、女性でなくても私としては大歓迎だよ」 男は、全体を舐め回すようにいやらしい目つきで青年を見つめて、口元を仄かに緩ませた。 「今、知人を待っているところだがね…、退屈しのぎに君の相手をしても文句はいうまい」 「…………」 青年は無言で、グラスに入った濃い青色のカクテルを口に含んだ。 微かに上下する喉が、妙に艶かしい―――……。 男の手が、青年のズボンの布越しに触れようとした瞬間、青年は目を吊り上げてキツク相手を睨んだ。 カチリ…… 「――触れるな」 相手を射殺すような鋭い視線に、男はビクついて身構える。 同時に、隠すように服の上から腹部にあてられた見覚えのある金属の感覚。 （拳銃か！） 男が立ち上がり抵抗を試みた瞬間に、青年の耳に新たな情報が伝わってきた。 “――撤収せよ” 『景虎、撤収だ！Bチーム作業完了、捕獲終了。ただちに撤収！』 「――長官。こいつは？」 『奴は利用価値がある。参考人として拘束し連れて行け、命令だ。』 「………」 スッと腕を持ち上げて、相手の隙をつき、青年は肘で激しく相手の首の真後ろを突いた。 一瞬にして気を失う男。もうすでに意識はない。 周りが異変に気づき始める。 室内に潜んでいた敵護衛の男達が、次々と身構えて駆けつけてきた。 青年は、気を失いぐったりと自分になれかかる大きな男の体を援護チームへ引き渡し、 速やかに撤収するべく走り出す。 弾はいくども青年の体をすり抜けていった。 荒い呼吸をしながら非常口の扉へと駆け出し、必死で外へと急ぐ。 （外へ…！早く外へ……ッ） 「おい景虎……ッ！援護しろ！」 「千秋！」 ドン……ドン、ドン、ドン…！ 青年は拳銃を構えて、素早い反射神経で一瞬にして相手の死角を捕らえ発砲した。 しかも、狙いは正確でミス一つない。 躊躇なく撃ちこむ青年の銃裁き、身構える姿勢は、まるで野生の山猫のようだ。 また、援護を依頼した千秋という男もライフル銃を身構え、狙いは外さず、腕も相当のものといえる。 次々と増える死体の数々――…… 店の外では、激しい銃撃戦が開始された。 そんな中、すり抜けるようにして予定どうり現れた撤退用の車に乗り込み、 チーム一帯はこの乱戦状態を後にした。 ※※※ 「………ッ」 「どうした景虎。どこかやられたのか？見せてみろ」 「いや、…そんな大げさなもんじゃない。少し腕をかすっただけで……」 二人は今、逃走用の車内の中にいた。 ――任務は成功、後はこのまま車が無事に本部へ戻るのみ。 撤退する際に激しい銃撃戦はあったものの、チームの犠牲も幸いでてはいなかった。 申し分なく今回の任務評価は合格といえるだろう。 だが青年の方は、微かだが小さく震えていた。 真向かいに座っている千秋は、そんな青年の様子に気づいて声をかける。 よく見れば、表情もどこか虚ろで瞳は遠くを見つめている感じだ。 普段の彼からいえば、少し様子がおかしい。 「――…何かあったのか？」 「……別に…ない」 青年は膝をかかえる腕をぎゅっと抱え込み、目線を床に向けたまま静かな瞳をして呟く。 「ただ――……少し怖くなっただけだ。 いつのまにオレは、こんなにためらいもなく、銃で人を殺せるようになっていたのだろう……」 「――…景虎…」 「銃を撃ち込むのに何の迷いもなかった。急に自分自身が恐ろしくなってしまったんだ。 馬鹿だよな今更、震えが止まらない」 「――景虎、おまえだけじゃないぜ。誰だって一度は考えることさ…気にするな」 ポンと肩に置かれた手が暖かい。 人肌を感じると、なぜだか気持ちが落ち着いてくるのがわかった。 （…千秋…） ※※※ 「――…確か今日だろ？あいつが支部から帰国するのは」 その言葉に、びくりと青年は肩を揺らした。 「二年ぶりの“再会”だよな。――……おまえの様子が今日おかしい原因は、 実はこれが大きいんじゃねえの？」 まるで図星だというように、青年の顔はやや強張って緊張した様子だった。 「……千秋、おまえに……関係ない…」 「へいへい、そりゃ悪かったな」 千秋はそんな青年の様子をみて思わず溜息を漏らした。 （どうしたんだ、オレは） 二年ぶりに再会する…。 ただそれだけのことなのに、この拭えない不安感が、焦りが、―――消えない。 （…何をおそれている？） 怖い、あいつに会うのが、あいつの顔を見るのが。 （オレはどうしたいんだ？） わからない、わからないんだ。 どう捉えていいのかも…… 青年は気持ちを落ち着かせようと、蹲ったまま深く深呼吸をした。 “――高耶さん” 目を閉じれば、低音で深く響く声、そして記憶が、……よみがえる。 「……直江…」 胸を締め付けるような切ない想いで、この場にはいない誰かの名を呼んだ。 記憶は、8年前にさかのぼる――…… Continue... ＜コメント＞ なんだか自分で首をしめる設定にしてしまった…と後悔しています。 難しい設定になると文才のない自分には限界というのを認識させられるのです…（汗） 直江…今回名前だけですね（笑）。…あ、でも高耶さんもですね。 次回は、序章の続き。過去編（少年編）の予定〜*【2003.1.26／ 桜】 |