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『距離』
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最後におまえに会ったのは、いつだったろう――……。 高耶はひとり、窓際に腰掛けて、外を眺めている。 涼しげな風が、高耶の前髪を揺らしていた。 梅雨は明けたというのに、蒸し暑い日が続く。 昼間は３０℃を越える所も少なくない。 ただ夜になると、気温も下がり、幾分過ごしやすくなるようだ。 「静かな夜だ……。」 ――…ふいに、声が聞きたくなった。 直江とは実際、２ヶ月以上も逢っていない。 （逢いたい） （声が聞きたい…） （おまえに触れたい） “私はいつでも、あなたの側にいます” 「――…嘘つき」 どうしておまえが今そばにいない？ 独りにするな、オレは、こんなにも弱くなっている。 心が…押しつぶされてしまう。 弱い自分を認めればいいのに、できなくて必死でもがいている。 本音を曝け出すのが何より怖いんだ。 寂しがり屋のくせに――… あの男に背中を見てもらえてはじめて安心できるくせに。 オレは何を隠す必要があるのだろうか。 ああ、ただ、今は…、 わけもなく、“おまえの声が聞きたい”と思う。 握り締める受話器。 ゆっくりと電話番号を押した。 響く、呼び出し音。 TRuuu....TRuuuu...TRuuuu... 『……もしもし？』 声が届いた途端、心臓がビクリと跳ねる。 ドクン…ドクン…ドクン。 『――高耶さん？』 「――……」 『高耶さんでしょう？』 涙が出た。 こみあげる思いが、涙となって頬を伝う。 「……直江、逢いたい」 これは何度も言おうとして、いえなかった言葉。 “逢いたい” 響く低音ボイスは、高耶の心を溶かしてゆく。 『この２ヶ月、あなたのことをいつも考えていた』 「……。」 『待っていて、今夜必ず、逢いに行くから――……』 二人は互いに、受話器にそっと口づける。 線上で感じる、唇の感触。吐息、 甘い――…キス 「直江、今日って何の日か知ってるか？」 『……ええ。織姫と彦星が年に一度逢う大切な日でしょう？』 「まるでオレ達みたいだな」 クスクス… 二人は、可笑しくなって、小さく互いに笑いあった。 『高耶さん、あなたは何を願うの？』 「決まってる。願いは一つだ」 「なんなら今夜、教えてやるよ」 『それは光栄ですね』 「答えは、ベットの中でな。」 ――逢瀬の夜はまだ、始まったばかり なにもかも暴かれたっていいんだ。 おまえの腕の中でなら――… |