些細な心がけ ふう…。 分厚い書類の数々から目を離して、直江は一旦椅子に寄りかかった。 今回はかなりの遠方先への出張。 しかもかなりのハードスケジュールで息をつく暇もないほど忙しい。 ふと、腕時計に目を向ける。 「…もうすぐ５時か」 日々仕事に追われ、ようやく日程を終えた直江は、帰路の新幹線の中で小さく呟いた。 （もう、一週間もあなたの顔を見ていない。元気でいるだろうか――…） 「高耶さん……」 目を閉じれば、高耶との毎日の生活の情景が浮かんでくる。 まだ始まったばかりの二人の新婚生活。 新しいことの連続で、慣れない環境の中、あなたは文句一つ言わなかった。 仕事で帰りが遅くなり、 二人で夜一緒に食事をする時間もあまり作れなくなった自分達にとって、 唯一の時間は、朝のひとときだった。 “ほら直江、起きろ朝だぞ” 温かい陽射しの中、朝食の身支度をする高耶さんの後姿。 軽やかに動く包丁の音。微かに漂う味噌汁の匂い。 せわしなく動く指先、そして背中。 何度見ても飽きることなどない。 いつまでも眺めていたくなってしまって、逆にいつも怒られてしまうのだ。 “バカッなにやってんだよ！早く用意しねーとおまえ完璧遅刻だぞ…ッ” 微かに頬を赤く染めながら、乱暴な言い回しになるあなたがかわいくて。 （ああ、このままだと干乾びそうだ……） あなたに触れたい。 そして、あなたの恥ずかしい姿を俺が暴いてあげるから。←？ 全てを曝け出して、掻き回して、熱い内部を×××で一杯にして。 ↑直江信綱回転中（爆） （あなたを抱きたい…ッ） ※※※※ 一方の高耶はというと、 自宅のマンションにて、ゴミ出しに精を出していた。 「く…ッ。なんでこんなに重いんだよぉッ」 両手に二つのゴミ袋を抱え、ゼイゼイ言いながら、 マンションの一階玄関外のゴミ指定場所にずるずると向かっている。 通常であれば、朝直江が手伝って一緒に持っていってくれるのだが、今は別だ。 直江が出張に出ているため、朝早く起きる必要がなく、 前もって前の日の夕方にゴミを運んでおこうと考えた末の行動である。 （直江……） 今日の昼には、帰ってくると言ってたのに、――…嘘つき。 頭の中では、分かってる。 帰ってこれないのは、仕事なんだよな……。 でも、今日の夕食は久しぶりに外食でもしようと約束してたのに、 また延期にするつもりなのか……？ おまえの所為だ、直江。 （一週間おまえの顔を見てないだけで、オレはこんなにも――…） ※※※ 「あらっ？直江さん家の奥さまではありません？」 「…は？！」 同じマンションに住んでいる主婦の人々が、高耶に話し掛けてきた。 奥さんだといわれ（←笑）、言葉に詰まった高耶などお構いなしに、 ここぞとばかりに次々と質問攻めの体制に入った女性達。 高級マンションの最上階に住んでいるというだけで、噂の対象となっているらしい。 「新婚さんでしょ？うらやましいわ〜」 「しかも旦那様、直江さんでしたっけ？素敵よね〜 」 「そうよね、 あの人となら主人に隠れて浮気してもいいって思えちゃうもの〜」 「まあ！でも確かにその気持ちわかるわ〜」 「ほんとよね〜」 「………。」 高耶は複雑な表情で、主婦方の会話を黙って聞いていた。 「えッ？あらいやだ。ごめんなさいね！私たちったらつい…」 「そうそう、気にしないでヨ。ただの主婦の戯言なのよ〜」 「いえ別に、気にしてませんから――…」 正直言って、直江が誉められる（？）のは嬉しい気持ちもある。 ――…なのに、素直に喜べない自分がいるのはどうしてなんだろう。 嫉妬なんだろうか、こんな些細なことなのに。 だけど、同時にこのひと達に叫びたい自分もいる。 本当のあいつを知っているのは、 外見だけでは解りえないすべてを知っているのは オレだけなんだと――……。 「ねえ新婚さん。失礼をしたおわびにとっておきの物をプレゼントするわ！」 「とっておきの、物ですか？」 「そうそう。今の新婚さんには必要ないかもしれないけど、 　 刺激があっていいかもしれないわよ？」 女性のうちの一人が自宅へ取りに戻り、高耶へあるものを手渡した。 退職をしてもう着る必要がないという、真っ白の……そう、 俗にいう“ナース衣装”である。 「…えっと、あの、これをどうしろと――…」 「いやあねぇ、決まっているじゃないの！これを着てご主人を誘惑するのヨ〜」 「ええッ！！」 （ゆ、誘惑…ッ！？） 高耶は、ナース衣装を改めてジッと見つめてみた。 （これを着て、オレが直江を？…） ＜続く＞ ＜コメント＞ 出張帰りの直江を待つ新婚の妻（笑）高耶さん。 次はコスプレネタになるのでしょうかねぇ……。 笑って見逃して下さいマセ。【2003,2,8／桜】 BACK