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***『静寂な時の中で』***
青い海が見渡せる、ホテル一室のスイートルーム。 ――早朝、午前５時３０分。 緩やかで澄みきった風が、レースのカーテンを揺らした。 窓に暖かな光が差しこむ。 柔らかな潮の匂い。 日常からかけ離れた、穏やかな時間。 高耶は、シーツにくるまって、心地よさそうに眠っていた。 側で直江が、ベッドに腰掛けて高耶の寝顔を見つめている。 長い指先は、高耶の髪を何度も梳いていた。 「目が覚めましたか？」 高耶の瞳がゆっくりと開いていく。 見上げると、そこには誰よりも大切な男の微笑みが映った。 「なおえ…」 「――…まるで、仔猫のように、丸くなって寝ていましたよ」 直江は愛しくてたまらないといったような瞳をして、囁いた。 「いいじゃねぇか、別に…」 答える高耶の頬は、照れているのか少し赤い。 「なあ、直江」 「なんですか？高耶さん」 「おまえの夢を見たよ。」 「夢を？」 「――…ああ」 「それは、どんな夢なんですか？」 「遥か遠くまで広がる草原の中、おまえが笑っている夢 その微笑が、なによりも愛しいと、……そう、思えた。」 ※※※ 二人はお互いみつめあう。 視線をかわすだけで、わかりあえる二つの心。 言葉など必要なかった。 次第に重なり、触れあう指先。 直江は、高耶をそっと引き寄せて、優しいキスをした。 「高耶さん、私は幸せですよ」 「……オレも同じだ」 共有できるこのひとときの時間が、何もかも忘れさせてくれる。 何も考えずに過ごす、穏やかで大切な時間。 感じるのは、髪を梳く指先のぬくもりと、直江の匂い。 奇跡のようなおまえの存在が、オレを癒して溶かしてゆく。 全てを預けて包まれる。 （――…ああ、この温もりが永遠に続けばいい） ※※※ 「…もっと、あれ、気持ちいいんだ」 直江に髪を触れられるのが、高耶には心地いいらしい。 「このままずっと、梳いていてあげますよ」 直江は耳元で小さく囁いた。 「誕生日おめでとう」 二人で迎えるこのひとときに、限りない時間に、祝福を。 他愛もない話をしながら、今日という一日をどう過ごそうか。 おまえが側にいれば、他になにもいらないから――…… |