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「Wish for happiness」
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Takaya Birthday..07.23
―――…それは、不思議な感覚だった。 窓の向こうには、青白く照らされた月 穏やかな波の音、潮の匂い 緩やかな夜の風 微かに聴こえてくる柔らかなメロディ 静かに肩を寄せながら、片膝を抱えて窓辺になれかかるあなたの姿。 潮風がさらりと髪を揺らす。 遥か遠くを見つめて、そっと呟くように “彼は歌っていた” その情景が綺麗で、どうしようもなく綺麗で――…… 涙が溢れた。 とめどない感情が、溢れ出て、涙となって頬を滑る。 ――ああ、俺はなぜ、泣いているのだろうか ※※※ 「ここから、海が見えるんだよな」 高耶は、直江が部屋に入って来る気配を感じたのだろう。 振り向かずに、夜の海を眺めたまま、微笑みながら、そう答えた。 直江の様子に、気づくはずもなく。 「あなたが見たいといったから」 「･･･ああそうだったな」 二人は今、都会から離れた物静かな別荘地に訪れている。 バルコニーや部屋の窓からは、見渡す限りの海を眺めることができた。 高耶の誕生日にどこで過ごしたいかと直江が尋ねたところ、 『海が見えるところがいい…』と高耶が答えたためであった。 「おまえさっきから、どこに行ってたんだ？」 「――……」 直江からの返事はない。 「なお･･？」 答えのない返事を不思議に思ってか、高耶が振り向こうとした瞬間、 背中に暖かいぬくもりを感じた。 窓際に腰掛ける高耶を、直江は後ろから強く抱きしめる。 痛みを隠すかのように、強く、身動きできないほど、全身で――…… 後ろから抱きしめたまま、直江は高耶の首筋へと顔を埋めた。 「――…直江」 「なにを泣くことがある？」 高耶は、背中越しに涙を流す直江を気遣い、癒すように、優しく問い掛けた。 そして、自分を抱きすくめる大きな直江の手に、そっと自分の手を重ねた。 「オレは今、幸せなんだ」 「今日という日を、おまえと共にうして過ごすことができる。 そして、おまえが側にいる。これ以上の喜びは他に見つからない」 「……高耶さん」 「そうだろ？」 儚く透明で、美しいあなた。 ただ、前を見つめる瞳だけは、死んでない。 ずっと強く生き続けている――…… （このまま消えるのは許さない） 直江に向けて、高耶の眼が、そう語っているようだった。 “この夜が、永遠に終わらなければいいのに” 何処へもいかないで 声を聴かせて、名前を呼んで。 誓ったから、この想いから生まれるもの全てを背負うと。 誰もが、世界が、いや…天さえもあなたを見捨てたとしても、 “誰よりもあなたを護り、側にいると” 俺はあなたの“翼”になるから どうか今夜だけは、俺だけのあなたになってほしい―――…… 日付は22日から、23日へと境界線を越えようとしていた。 時計の針が、確実に秒を刻んでゆく そして―――……午前0時深夜。 「お誕生日おめでとうございます、高耶さん」 「ありがとう、直江」 直江は、穏やかな表情をして、愛しい人へのお祝いの言葉を捧げた。 二人は見つめあい、優しく触れるだけの口づけを交す。 何度も繰り返す静寂な夜の波の音を聞きながら、 二人は寄り添うように、壁になれかかって床の上に座っている。 明かりは、青白い月の光だけだった。 ※※※ 「高耶さん、実は大きなバースデイケーキを用意したんですよ」 「ケーキッ！？」 「ええ、食べませんか？」 嬉しそうな直江の表情を見るにつれ、しょうがねぇ奴だ…とでもいいたいのか、 高耶はふぅ…と溜息を漏らした。 「――ったく、オレはもう子供じゃねーんだよッ」 「食べたくないんですか？」 「だから、そうじゃなくて！」 「“青い風船”のシフォンケーキですよ？」 「えっ！青い風船？」 「高耶さん、好きでしたよね、確か」 「う………」 高耶は言葉に詰まってしまった。 確かに 直江の言う通りだった。 以前、直江がお土産にと買ってきてくれた“青い風船”のシフォンケーキ。 生クリームがあっさりとしていて、それでいて口の中で溶けあう甘さが心地よい。 生地とクリームのバランスがうまくかみあっていて、 深みのある味だったことはまだ記憶に新しい。 「今日の為にわざわざ宅配で取り寄せたんですよ。先ほど届いたところです」 「欲しくないの？本当に？」 （――直江は意地悪だ） わかっていて、わざとからかうような直江の表情が高耶には面白くないらしい。 高耶はムッとしながら僅かに頬を赤らめ、上目遣いに直江を睨んだ。 「――食うッ！！」 直江は一瞬“おや？”という顔をみせた。 そしてムキになる高耶の可愛さを前にして、思わず笑みを浮かべる。 愛しさに溢れた直江の瞳。 「プレゼントは、他に何か欲しいものはありますか？」 「――別にいい」 「嘘、顔に欲しいってかいてありますよ？」 高耶も笑った。 ※※※ ――……そうだな “オレのことだけ考えてくれるか？” 「いつもあなたのことだけを考えている」 “側にいて欲しい” 「――側にいる」 “抱いて欲しい。壊して欲しい。狂わせてもいい” 「今すぐ抱いてあげる。あなたが根をあげても離しはしないから」 「覚悟はいいの？」 高耶は急に真っ赤になって、コクンと小さく頷いた。 “オレだけを愛してくれよ。……オレだけを” ただひとつの愛。 果てしない渇き、そして飢え。他にほしいものなどありはしない。 この男だけ、独占したいのはこの男の愛だけ。 おまえの幸福は、オレの幸福。 おまえの罪は、オレの罪。 ※※※ 高耶の手が、直江のシャツを掴んだ。 指先は、男のシャツのボタンをゆっくりと外してゆく。 直江は目を見開いた。 かまわずに高耶は続けていく。 次第に衣服がはだけ、露になる直江の肉体、そして…肌。 高耶は愛しそうに、直江の首筋から胸へと手を這わせながら、肌を滑る。 同時に肉厚な口唇が直江の肌に触れ、刻印を残す。 柔らかな愛撫――…… 「今日一日は、おまえを自由にできる権利がオレにはあるんだよな？」 「…そうですね、あなたの誕生日だ」 直江は微笑ってそう答えた。 すると高耶は、飢えたような、濡れて艶めいた瞳を見上げながら、 挑戦的で、小悪魔的な微笑をニィッと浮かべる。 「おまえを誘惑してるんだよ」 一つ一つの動作に、仕草に、行動に、全てに目が奪われてしまう。 高耶は、直江の耳元へ顔を近づけ、耳朶を軽く甘噛みした。 ゾクリとくるような、甘い囁き。 「わかるだろ？おまえに欲情してるんだ」 「―――……！」 止めることのできぬ衝動が刃となる。 瞬く間に剥がれ落ちる、理性。 その言葉がとどめとなった。 刹那、直江は高耶の腰に手を遣り、力強く引き寄せて、 全てを奪い尽くすように、貪るような口づけを施す。 身動きなどできやしない。お互いの舌と舌が激しく求め合っていた。 激しさを増した、濃厚な口づけ。 「――ッ、くる…し…ッ」 （このひとは何度俺を狂わせたら気が済むのだろう） こんなあなたを目にして、平静でいられる男なんていない。 「――わかっているくせに。悪いひとだ」 何もかも曝けだし、溶けあい、絡みあう躰。 思うが侭に、淫らになる。 大きく開かれた脚。飛び散る汗。気が狂うほどの叫び。 喘ぎ、しがみつく腕。流れる体液――… 獣のような交わりに、終わりなどない。 最奥を穿つ衝撃に、激しく喉を仰け反る。 【誰もを虜にさせる、組み伏せられた美しき白い獣】 男の凶器が内壁を擦る痛みは、既に快楽へと変わる。 “もっと奥までくれよ……ッ” 繋がった場所が、溶けあい交じりあい、ひとつになる。 『愛している…』 汗に濡れた髪を優しく梳いてやりながら、直江は何度も何度も囁いた。 胸の中で、直江の言葉が染みわたってゆく。 高耶は、しがみつく腕に力を込めて静かに瞳を閉じ、 少し照れた仕草で微笑ってみせた。 “オレも愛してるよ” 朦朧とした意識の中で、遠くで海の音を聴いた気がした。 すべては、ここにある。 現実がどれほど迫ってこようとも、安らげる場所がココにあるではないか。 今はまるで、世界に二人だけだと錯覚するような、楽園のようだ思った。 何をなくしても、たとえ世界が壊れたとしても、願うのはひとつなんだ。 ひとつだけなんだ。 『これからどこにいけばいいんでしょうね』 『遠くまで、遠くまでいくんだオレ達は』 『遠くまで？』 『――…そう、遠くまで』 『一緒に、歩いてゆけるだろう？直江』 『ええ…』 ※※※ 「あの時は、何を歌っていたの？」 「えっ？」 「さっき窓際で、口ずさんで歌っていたでしょう？」 「ああ、あれか。さっきＴＶで流れていた曲だ』 「そうだったんですね」 「タイトルは知らない歌だったけど、歌詞が気に入ったんだ。ただ、それだけ」
「雪ですか、季節はずれの歌ですね」 「――うるせーなッ」 二人は互いに視線をあわせると、くすくすと笑った。 激しい情事のあと、なにもする気が起きず二人は共に微睡んで時を刻んだ。 直江は高耶が寒くないようにと、肩にローブを掛けてやる。 床には、月が照らした二人の肩を寄せ合いながら座る影と、汚れた白いシーツ。 直江は今までどこに置いていたのか、金色のリボンがついた小箱を手にとった。 「誕生日プレゼントにと、実は以前買っておいたんです」 高耶は不思議そうな表情をして、直江を見る。 「開けてみて…」 開けてみると、そこには二つのシルバーリングが入っていた。 高耶は驚きで目を見開く。 「……これ…」 直江はゆっくりと頷き、指輪のひとつを自分の左薬指にはめてゆく。 次にもうひとつの指輪を、同じように高耶の左薬指にはめた。 そして静かに、リングのある指先と手の甲に口づけをおとす。 限りない愛しさを込めて――…… 「あなたが生まれ変わろうとした、この愛しい日にかけて誓う」 「――…直江」 「愛している。ずっとあなたの側に――…」 無限に輝くダイアモンドの光は、その永遠の証。 眩しくて―――… 高耶の頬に、一粒の涙がこぼれた。 「ありがとう」 求めていたのは、こんなに小さな小さな願い。 「なおえ、もう一度したい」 このままずっと、夜が明けるまで抱きしめて欲しい。 ※※※ 今日という日が、聖なる夜へと変わりゆく。 静かなる海よ、祈りの声が、聴こえるだろうか。 言葉にできない想いがある。 この奇跡に、祈るんだ――…… おまえの腕の中で、オレは夢を見た。 苦しんでなどいない、そう、おまえが優しく微笑む夢だった。 最後の祈りは、この腕の中 End |
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Happy Birthday...Takaya..07.23 |
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＜コメント＞
二人への愛をこめて書いたので、自分でも思い入れが強い作品となったかも。 書きたかったのは、高耶さんの歌うシーンと、それぞれの涙。 一応誕生日なのに、暗くてすみませんッ（汗） 指輪はなぜかダイアモンドまでつけてしまった（笑）。 いえ、なんとなく永遠のダイアの輝きは高耶さんと妄想してしまって（苦笑）。 今回の小説は、私の思う切ない直高の姿イメージを表現してみたかったのです。 二人への愛しさがうまく文体にあらわれてくれればいいなあ。どうでしょうか？ 【2003,7,27／桜】 |