『大切な時間』











――あのひとは決まって俺の帰りを待っている。

残業で深夜遅くなることも多々ある。



あなたに寂しい思いをさせることになるから遅くまで待つ必要はないと

何度問い掛けても、静かに首を振って微笑して…答えた。



『おまえと食べたいんだ』



“おまえとの唯一の時間を大切にしたいから”


（――……高耶さん）

あなたの一言にいつも救われる。

いや、どれだけ救われたことだろうか…。



――深夜2時。

予定時間を大幅に過ぎた直江が帰宅した。

「ただいま…高耶さ…」

床に蹲ったままの姿で、高耶は眠っていた。

丸くなって眠る様子は、まるで仔猫のようだ。



直江の帰りを待っていたのだろう。

テーブルの上には、ラップをかけた状態で、

手付かずの二人分の食事が綺麗に用意されていた。



（寒くないだろうか）



直江はそっと、上着をかけてやる。

「ん…」

気配を感じたのか、びくりと肩を震わせて、小さく声を漏らす。

「あ…なおえ？」

眠たそうに軽く目を擦りながら、高耶は真上を見上げて呟いた。



「すみません、起こしてしまいましたね」

「―…おかえり、直江」

「ただいま」



「ん〜…ッ、なんだか体がだりぃ…」

「お疲れのようですね」

「―…誰の所為だよッ！」

「おや、昨日の夜は高耶さんだって随分…」

「うるせーッ、おまえが悪いんだよっ！」



クスクスと笑う直江に、ムッとした表情で高耶は睨む。



「許してもらえますか？」

「しょーがねーなぁ」



「今夜の夕食のおかずは豪勢ですね」

「すっかり冷めちまったけどな」

「あなたの手料理が食べられる私は幸せですよ」

「残したら承知しねーぞ」

「もちろん、残さず食べますよ」



“あなたが、ここにいてくれるなら。それだけで――……”





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