「――高耶さん、どうしたんですか？」 「…別に、どうもしない」 「では、どうしてこちらを向こうとしないのです」 「――……」 「高耶さん、こっちを向いて」 「どうもしないって言ってるだろう…ッ！」 高耶は、どうしても振り向こうとしなかった。 直江は無理矢理こちらを向かせようと、高耶の肩を掴んだ。 「なお…ッやめっ！」 「やめない」 「――…なおえッ！」 ――高耶の白いシャツには、不似合いな鮮やかな赤い血がついていた。 「――また、血を吐いていたのですね」 「…大丈夫だ、たいしたことない」 「――高耶さん」 「大丈夫だって言ってる、もうオレにかまうなッ！！」 高耶は再び、直江に背を向けた。 肩が小さく震えている。 直江はそれ以上何も言わなかった。 ※※※ ―――……もう、どれくらいこうしていたのか―― 時間だけが、ゆっくりと過ぎてゆく。 波の音だけが、静かに聞こえる。

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